DXソリューション事例集

株式会社ハイブリッド・ラボ

AIがうまいホタテを職人不足と品質低下から守る

株式会社ハイブリッド・ラボ

  • 分野:農業・林業・水産業
  • キーワード:AI/画像解析

ホタテの貝柱の質量をAIで自動推定する「AIセレクタ」は、トレー詰めするホタテの質量を自動推定することで、パック詰めの際の選別・組み合わせをサポートする。選別の工程を自動化することで、ホタテ剥き身加工の生産性向上を実現

「人手が足りない」「後継者がいない」「熟練者は高齢」「技術が途絶える」……など、このような声はさまざまな現場で聞かれます。株式会社ハイブリッド・ラボの石橋社長によると、宮城県石巻市の水産加工場においても、同じ声が聞こえるいっぽうで、海外からの日本製水産加工品の需要は近年高まり続けていると話していました。
人手と技の不足を助ける水産DXが、石巻に誕生しました。

【課題と経緯】ホタテを選別できる職人が足りない

水産加工事業やソリューション事業等を行う株式会社ハイブリッド・ラボ(以下、HL社)は、2020年6月に破産した石巻市内の水産加工会社の従業員と不動産を、同年に引き継ぎました。2020年に3月に設立されたHL社は当初から、石巻市から最高の水産品を世界に届けることを業務命題に掲げる中、就業人口の減少に伴う熟練者の人手不足や生産性の低下、技術格差といった課題に、直面していました。
HL社が引き継いだ水産加工会社は、ホタテやカキ、ホヤなどの水産加工品を業務販売してきた会社です。パックに詰められたホタテの剥き身は、この会社の主力商品のひとつ。これまでは職人が、見た目でホタテの剥き身一つひとつの重量を見分け、どのパックもほとんど同じ重量となるように組み合わせてパッケージングしてきました。この、外観だけで重量を推し量る技術は、習得するのに3〜4年を要すると言われています。この技術を持った職人が、工場の現場では足りなくなりつつありました。
商業施設・店舗の設計および商空間制作を行う株式会社ラックランドは、そのグループ会社であるHL社と、コンサルティングファームである株式会社O2ともに、ホタテの質量を自動推定する「AIセレクタ」の開発を開始。2021年3月からの実証実験を経た現在、HL社のラインでAIセレクタは稼働しています。

ブレインストーミング
▲株式会社ラックランドが開発したAIセレクタ(株式会社ラックランドのプレスリリースより)

【ソリューション】パッキング時の選別工程を自動化。「勘」がなくとも選別が可能に

一般的に、ホタテの剥き身加工は「剥き身」「パッキング」「出荷準備」の行程で構成されています。AIセレクタでは、「パッキング」の選別自動化を可能にします。AIセレクタが導入された加工現場では、以下のような手順がとられることとなります。
まず、トレーにホタテを並べ、カメラを搭載したAIセレクタの筐体に入れて撮影。撮影した画像からAIが瞬時に質量とサイズを解析し、ホタテを色分けします。液晶画面に色分けされて表示される同じ色のホタテをそれぞれパックに詰めればパッキングは完了です。
HL社で行われた実証実験の結果によると、AIセレクタ無しでのパッキング工程には平均102秒かかっていましたが、AIセレクタ導入後は71秒にまで短縮されました。ホタテの剥き身加工現場における、大幅な生産性向上と労務費削減を実現するしくみが誕生しました。
初期費用をできる限り抑えることで導入のハードルを下げるために、AIセレクタ導入にかかる料金は月額7〜8万円のサブスクリプション形式がとられています。2022年12月からは、HL社以外の事業社へのパイロット版導入が始まる予定です。

▲ホタテの剥き身加工の一般的な工程フロー(株式会社ラックランドのプレスリリースより)
▲ホタテの剥き身加工の一般的な工程フロー(株式会社ラックランドのプレスリリースより)
▲AIセレクタを用いたパッキングの工程フロー(株式会社ラックランドのプレスリリースより)
▲AIセレクタを用いたパッキングの工程フロー(株式会社ラックランドのプレスリリースより)

【効果と展望】うまいホタテをダイコンから守る

HL社のホタテ剥き身加工に従事していた職人技を持つ作業者たちは、AIセレクタを前に拍子抜けしていたと、HL社の石橋社長は話していました。また、その日にラインに入った高校生でも、すぐに10年選手の技をもった職人のように働き始められるとも。
AIセレクタ導入の利点は、生産性向上と労務費削減だけではありません。ホタテに触れる時間も大幅に短縮される結果、ホタテの品質低下が確実に避けられることとなります。そもそも、ホタテの身は衝撃に弱く崩れやすいものです。また、HL社の石橋社長によると、ホタテの身は温度変化にも弱いため、人間の体温によって温められると、職人が「大根」と呼ぶ硬化現象が始まってしまうとのことでした。AIセレクタには、衝撃と「大根」からホタテの身を守る機能も兼ね備えていることになります。
「プロ中のプロがうなる品質を提供したいんです。AIセレクタはその一環です」と石橋社長が話すHL社では、AIセレクタに加え、ホタテ貝の活性化技術や凍結技術を組み合わせた「最鮮ホタテ」と名付けられた商品を展開。AIセレクタは石巻のホタテに付加価値を加えました。

▲株式会社ハイブリッド・ラボ独自ブランドの「最鮮ホタテ」
▲株式会社ハイブリッド・ラボ独自ブランドの「最鮮ホタテ」

HL社の石橋社長ご自身も、職人のお一人。長く築地市場に身を置き、魚の世界を広く深く知る目利き職人です。
「石巻のホタテはほんとうにおいしい。特に生で食べると、(他の産地のホタテと比べ)もうぜんぜん味が違いますから。このうまいホタテを、なんとか多くの人たちに食べてほしい。」石橋社長は、こう力説します。石巻のホタテを愛する人々の思いが、石巻に新しいDXを生み出しています。