DXソリューション事例集

阿部建設コンソーシアム

「無理」や「無駄」をそぎ落とし、建設業界の生産性改革に挑む

阿部建設コンソーシアム

  • 分野:観光・経済商工
  • キーワード:AI/映像伝送

国土交通省の取組である、「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」を推進する目的で、北海道小樽市の阿部建設株式会社を代表者として、大学や研究機関、建設会社等を構成員として、PRISM予算を活用して各種実証実験を行い、建設現場の生産性改革に挑んだ。

国土交通省の取組である建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト「PRISM(プリズム)」※。2020年12月からは阿部建設コンソーシアムが挑戦し、実際の建設現場にAIやIOTの技術を導入、さまざまな「無理」や「無駄」のそぎ落としを試みました。建設業界の未来を作る足がかりとなる試行の数々。
その内容と展望について、聞きました。

※PRISM(プリズム):官民研究開発投資プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM)の略称。民間の研究開発投資誘発効果の高い領域(ターゲット領域)に各府省の施策を誘導し、それらの連携を図る内閣府の予算制度です。

【課題】長時間労働の常態化、「働き方改革」の適用が迫る!

2024年4月から建設業界にも適用される「働き方改革」。時間外の労働に上限が設けられ、それ以上に労働者を働かせた場合には、法律違反としてとがめられるというものです。

全産業の平均よりも年間300時間以上も多く働いているというデータ(国土交通省の「建設業における働き方改革について」より)がある建設業界は戦々恐々。

そうでなくとも少子高齢化の影響による労働不足が深刻になる昨今。働き方や労働環境を早急に見直さなければ、事業自体の継続が危うくなってしまいます。

そこで、北海道では公共工事を多く請け負ってきた阿部建設株式会社が中心となり、コンソーシアムを発足。国土交通省が推進するプロジェクトに挑戦し、建設業界全体の生産性改革を牽引しようと立ち上がりました。

まずは月に一度、工事を発注する側と受ける側が同席し、自由な発想で意見を出し合う「ブレインストーミング」を実施。実際の現場や仕事上でそぎ落とせる「無理」や「無駄」について計5回、協議を重ねました。

結果、長い移動や待ち時間、ひとつの工事に2000枚以上と膨大な量の書類作成の手間が「無理」や「無駄」として上げられ、解決のカギは「映像にある」という意見で一致。双方の合意のもと、今回のプロジェクトではこの2点を徹底的に改善しようと決まりました。

ブレインストーミング
▲ブレインストーミング自体にもAIを活用し、人の手だと8時間はかかる議事録作成が1.5時間で完了。頻出する重要ワードを分析し、議論の焦点をすぐに「見える化」するなど、大幅な効率アップを体験
▲ブレインストーミング自体にもAIを活用し、人の手だと8時間はかかる議事録作成が1.5時間で完了。頻出する重要ワードを分析し、議論の焦点をすぐに「見える化」するなど、大幅な効率アップを体験

【ソリューション】遠隔臨場&映像による書類代用で時間と手間を大幅カット

確認や検査のたびに、いちいち人が足を運ばなければいけなかった建設現場。特に広大な北海道では会社や事務所がある街の中心部から遠く離れた現場も多く、誰かが遅れるとその都度、ロスタイムとなり、ひとつの現場での移動や待ち時間はかなりのものになってしまいます。

そこで、現場に足を運ばずともオンラインで確認や検査ができる有効な「遠隔臨場」を構築しようと試みがスタート。スケール感についての違和感が生じることを踏まえて、事務所からモニターを見る監督員や発注者の視線を追跡調査、従来の監視用モバイルカメラに加え、俯瞰的な固定カメラと360度クラウドを併用することにしました。

現場の作業員が送ってくるモバイルカメラの映像だけでなく、俯瞰映像や360度、全体をチェックできる画像を組み合わせることで、より厳しい発注者の目にも納得度の高い現場の臨場感を表現できるようになりました。

まだまだ改善の余地はあるものの、令和4年度からは国土交通省も、この「遠隔臨場」を業界全体に推奨しています。

効果的な遠隔臨場による仮想空間の創出
移動時間の削除・待ち時間の削減

また、もうひとつの大きな「無駄」とされた報告書などの膨大な書類作成については、映像による代用が試行されました。

建設現場に映像解析のAIを導入し、シミュレーションで最適なカメラ位置やカメラ台数を決定。現場の固定カメラで施工状況や進捗具合をリアルタイムに確認、その記録を書類に代えようというものです。

長時間の作業を撮影した映像は、あとで目的のポイントを探すのが難しくなりますが、ポイントとなる箇所でカメラを暗転させ、明度を変えてマーキングしておくことで、簡便な検索を可能に。

さらに工事が完了した建造物などの画像をコンピュータに取り込み、3次元で再構築し、3次元の設計図と重ね合わせることで検査をする「3次元再構築出来形確認」についても、その実用性が確認できました。

ほかにも、コンクリートの打設の映像から品質を確認、作業員の動きにフォーカスすることで作業員の関係性を分析したり、工程を管理。熟練の技をデータ化して、人材育成に生かすなど映像の可能性は多大であることがわかりました。

【効果と展望】1日あたり、約3時間の労働時間削減に成功!

今回、トライアルの舞台となった工事の期間は、厳冬期となる10月半ば~3月末の5.5カ月。その間、現場に足を運ばず「遠隔臨場」で確認、検査をすることで、移動や待ち時間は146時間の削減に成功しました。

また、コロナ禍もあり、非接触なオンライン会議を増やしたことで、社内ではトータル6時間の会議に90人が参加。削減された移動時間は、110時間にも及びます。

これまで現場技術者の労働時間の実に4割を占めていたという書類作成の手間も、映像記録の代用によって37%(1現場あたり244時間)カット。

結果、監理技術者の労働時間を33.6%、1日あたり2時間41分も削減することに成功したのです。

阿部建設株式会社では今年度中にもう一度、実際の現場での試行を重ね、来年度からはすべての現場でDXによるソリューション導入を予定。建設業界全体への早急な普及を目指し、本格的な一歩を踏み出していきます。

▲阿部建設の将来を担う、若手技術者
▲阿部建設の将来を担う、若手技術者